2016年12月27日

天国と地獄(その2)

(続き)


 「Gよ、これからお前に審判を下す」

 来たよ。しかしこのベタな展開、まさに想像通り。これも俺の想像の産物か?

 「まず、お前の罪だが、スコアを誤魔化すこと12回。これには意図せず過少申告した7回が含まれる。次にライの改善をしたことが31回、ちょっと多いほうじゃな。それから」

 「いやいやいやちょっと待ってください大王さん。なんでゴルフの事なんですか?しかもいきなり。普通は人を傷つけたとか、道徳的に悪いことをしたとか、そんなことのほうが大事じゃないですか?」

 「ん、そうだな。だがお前の頭の中はゴルフの事ばっかりみたいだからな。間違えたわい。お前の人生全般のことについては、すでに天国行きが決まっておる」

 「まじっすか?!良かったー!!」

 「お前の普段の行動については−28,804点、家庭や家族のことについては−4,686点、他人への関わりについては−6,319点、良いところはまったくなかった」

 「えー、そんなに酷かったんですか?」

 「酷かった。まあ1,000人に1人のマイナス点じゃな。しかし、仕事を熱心に行い、多くの人たちに夢と希望を与えた点。これがプラス40,251点で、かろうじて天国行きが決まったのじゃ」

 「そうですか。まあ天国へ行けるならいいか」

 「しかしここからじゃ。天国といっても色々ある。いや、100人人間がいれば100個の天国があると言って良い。それぐらい天国とは個人的なものじゃ」

 「そりゃそうでしょうね。家族と平穏に過ごすことが第一って人もいれば、延々と酒が飲めたら後は何もいらないって人もいるでしょうし。おっぱいの大きい女の子が」

 「お前の天国はゴルフができるかどうかである」

 「仰るとおり。ノー・ゴルフ・ノー・ライフ、が私の座右の銘でしたからね」

 「で、お前がその『ゴルフができる天国』に行けるかどうかが、これから審判されるのだ」

 「あ、そこで最初の話になるわけか。そりゃ大丈夫でしょ。憚りながらハンデは片手、ホームコースでインターの選手にもなったし、ゴルフ仲間もたくさんいたし、マイナス点なんてこれっぽっちもないはずだけど」

 「どうかな。それを今、全て明らかにしてみよう」

 「どうぞどうぞ」

 「上の続きだが、そうやってズルをした回数は合計で92回。920点減点じゃ」

 「多いのか少ないのかわかんないけど」

 「92回という数はまあ、お前のゴルフ歴を考えると多くも少なくもない。次にゴルフに対する姿勢じゃ」

 「一生懸命やってたけどなー」

 「まず、コースを意図的に傷つけたことが119回、スタートの遅刻をしたことが54回、同伴競技者を不快な気分にさせたことが2,177回」

 「ちょ、ちょっと待って!コースを傷つけたのは認める。遅刻も認める。でも最後のは何かの間違いだ。しかも二千回以上って」

 「閻魔大王に間違いはない。例えば、コースで大声を上げたことはなかったか?前の組のスロープレーに悪態をついたことは?ミスショットに対して周囲が引くほど怒りを爆発させたことは?」

 「そりゃ多少はあるかもしれないけど、二千回以上って」

 「まあ1ラウンド平均にすると0.9回ぐらいになるな。それぐらいならあるだろう」

 「そんなに無いと思うけどなあ」

 「これで減点23,500点じゃ」

 「そんなに無いと思うけどなあ・・・・」

 「次。自分が上手なことを鼻に掛け、自分より下手なプレイヤーをバカにするような発言や行動をしたことが301回」

 「いやいやいやいや、それは無い。絶対にない」

 「お前が無いと思っていても相手はそう思っていないのだよ。何なら1人づつ名前を上げていこうか?」

 「いいですよ、どうぞ」

 「お前のホームコースの大先輩、S氏に対して。20xx年x月x日、12番ホールの2打目地点。S氏が打とうとした時、お前はすぐ横のカートで自分の荷物をいじってガチャガチャ音を立てた。S氏が『静かにしてくれんかね、G君』と声を掛けたことに対し、お前は『スイマセン、でもこれぐらいの音が気になるメンタルではシングルにはなれませんよ』と言った」

 「いや、それはSさんのことを思ってですね・・・」

 「コースの理事であるSさんは相当腹を立て、『あの失礼な若造を除名にしろ!』と理事会で話が上るまでになった」

 「それは私の本心が曲解されてですね・・・」

 「その問題を解決するのに、お前の友人が何人骨を折ってくれたことか。そのことは知っているだろう」

 「そう言えばそんなことをチラッと注意された事があったような、なかったような」

 「つまり君は自分の問題行動をまったく自分でわかっておらんのだ。それは一番の罪だ」

 「そんなつもりはなくて、私はただSさんにもっと大らかなゴルファーになってほしくて」

 「・・・・。もういい。次は他人のミスを笑ったり、ミスを責めたりしたこと」

 「たまには笑うでしょう。でもその笑いは嘲笑じゃなくて、場を和ますためであって」

 「そういうのを閻魔用語で『言い訳』という」

 「いやいや、言い訳じゃなくてですね」

 「楯突く気?閻魔大王様に?」

 「はいはいはい。どーぞ続けて。じゃあミスを責めるって?」

 「グリーン上でラインを踏まれた時、『それはゴルファーとしてどうなんですか?』と言ったり、『ちょっと注意力が足りないんと違いますか?』と言ったり」

 「いや、そんなの、いつもじゃないですよ」

 「現に、その棘のある言い方で非常に立腹した人が4人もいるのは事実だ」

 「それは踏むほうがそもそも悪いし、注意に対して怒るなんて逆切れじゃないですか」

 「お前の言っていることはたしかに正しい。しかし、正しいことが全て『正解』とは限らないのだ」

 「いや意味わからないし。正しいことはいつも正しいでしょう」

 「お前は容姿を気にしている女性に『あなたは酷いブスだからもっと化粧をうまくしたら?それより思い切って整形したら?そのほうが人生うまく行くよ』と言うのか?」

 「いや、そりゃ知らない人には言いませんよ。でも親しい人になら言ってあげたほうが親切じゃないですか」

 「そういうのは閻魔用語で『大きなお世話』という」

 「そうですか。正直に生きることが正解じゃないなら、僕はその正解を否定したいですね」

 「というわけで、減点は合計で8兆2144億7796万2858点だ」

 「はぁ?なんですかその天文学的数字?絶望的じゃないですか。じゃあゴルフのできない天国行きなんですねはいはい」

 「まあ待て。あとは加点がある」

 「8兆って」

 「まず、同伴競技者が楽しい思いをした。1,902点」

 「8兆って何なん」

 「ゴルフというスポーツに真摯に向かい合った。15,688点」

 「桁が何桁違うねん」

 「真面目に努力し、人々の模範となる言動を取った。93点」

 「誤差やん」

 「そして」

 「もうええわ」

 「コースに咲いた一輪の草花を避けてショットした。1兆点」

 「どんなシステムやねん」

 「最後に」

 「いまのがオチとちゃうんかい」

 「8人のゴルファーに対する良きライバルとして君は居た」

 「その点数は?」

 「7兆点ちょっと」

 「なんで帳尻合わすねん。バラエティ番組か。で、結局どうやねん!!」

 「君は」

 「僕は?」

 「練習場しかない天国で功徳を積み、1000年後にまたここへ来なさい」

 「何それ?それ天国ちゃうし」

 「練習し放題の天国だな」

 「・・・・」

 「以上」

 「判った。それなら、1000年間練習し続けて」

 「?」

 「天国一上手いゴルファーになってやる!!」






 彼が天国一上手いゴルファーになれるかどうかは、1000年後に結論が出る予定である。

(終わり)
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2016年12月26日

天国と地獄(その1)


 最高の季節、例えば晩秋の小春日和。気のおけない仲間たちと最高にコンディションが整った名コースを回り、ラウンド後はレストランでのゴルフ談義に時を忘れ、その後も場所を変えて昼間のラウンドを肴に美味しい料理と酒を酌み交わす。そしてそんな日がずっと続く。

 また、金に糸目をつけず、世界中の名コースをラウンドして回る。あるいは、素晴らしい景色や満開の桜、見事な紅葉を愛でながらコースを回る。

 最終ホールをパーで上がればベストスコア更新。ティショットがフェアウェイに飛び、2打目のアイアンショットがピン方向へ。グリーンへ上がってみると、タップインの位置にボールが・・・・


 ゴルファーにとっての天国というものがもしあれば、そういうものを想像するだろう。

 逆に地獄の方はシンプルだ。ラウンドできない、それだけでゴルファーは羽の折れた鳥のように自由を奪われてしまう。

 さて、これから語られるのは一人のゴルファー、G氏の物語。その主人公がいきなりこの世に別れを告げたところから始まる・・・・







 どうやら俺は死んでしまったようだ。死因?そんなことはもうどうだって良い。後ろを振り返っても戻れないし、俺のモットーの1つは「常に前向き、後悔しない」だからな。

 俺が死んでしまったと感じたのは、深い霧が立ち込めた、得体の知れない場所に立っている状態で目覚めたからだ。目覚めたというより、いきなり意識が100%戻った感じ。地面はしっとりと湿った土のような感触だが、あまりに霧が濃すぎて立った姿勢からでも確認できない。

 動こうにも動けず、とりあえず大声で「おーい」と叫んでみる。反響はない。野原にいるような感じだ。とりあえず危険はなさそうだし、もしあってももう死んでるんだからこれ以上悪いことは起きないだろうと思い、そろそろと歩き出した。

 あの世でも時間の経過があるのかどうかわからないけど、10分ほど歩いたところで水が流れるような音がしてきた。お、噂に聞く三途の川か?と俗っぽいことを考えながら歩みをすすめる。すると、霧が少し晴れ、オーガスタの13番左サイドに流れるクリークそっくりのこじんまりとした川が目の前に現れた。

 これはたぶん俺自身が作り出した「川」のイメージなんだろうな。ゴルフが好きで、仕事も家庭も疎かにしてゴルフにうつつを抜かした人生だったものな。などと考えつつ、浅瀬と岩を足場に向こう岸へ渡る。え、そんなに簡単に渡っちゃていいのかって?俺のモットーの1つは「思い立ったら即行動」だからな。

 なんとか渡りきる。気づけば霧がだいぶ晴れてきて、遠くにぼんやりと建物のようなものが見えた。とりあえずそっちへ行ってみようか。



 現世に置いてきた嫁さんと子どもたちはどうしてるだろうな、などと考えているうちに建物に到着。ギリシャの神殿っぽいと言われたらそんな感じだし、寺って言われればそんな雰囲気もするし、まあこれも自分の「死後の世界の建物」のイメージが投影されてるってことだろうな。

 で、門的なところには鬼的なものが居て、気がつけば周囲には私と同じような死者的なものがぞろぞろと歩いているのだが、皆ぼんやりしていてよく見えない。なんとなく、その死者的な群れと同じ方向に歩いていく。

 そうこうしているうちに、目の前にひときわ大きな人物が見えてきた。ほぉ、たぶんこいつが閻魔大王的なもので、ここで天国とか地獄に振り分けられるのだろうな、と思ったらまさにそのとおりだった。あの世も意外と陳腐である。

 「Gよ、これからお前に審判を下す」


(続く)
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2016年05月28日

古典的正答

 休日。いつものようにラウンドし、早めに床についた真夜中。

 ふとただならぬ気配を察し、目を覚ます。するとベッドのすぐ横にこの世のものとは思えない何者かが立っているではないか。夢かと思ったが、どうやら違うようだ。するとまだはっきりしない頭の中で声がした。

 「私はゴルフの女神。あなたのゴルフに対する人一倍の情熱、それをたたえるため、今日はあなたに贈り物を与えにきたの。今からいう二つのうちどちらか一つ、欲しいものを選びなさいな」

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 眠気がいっぺんに覚める。これって星新一とかのショートショートによくあるやつじゃん!降って湧いた幸運に興奮する私。

 「1つめはOBが出ない手袋よ。ただしその手袋は必ず両手にはめること」

 「2つめは絶対に3パットしないパター。ただしそれは長尺パターなので、アンカリングしない打ち方を自分で工夫しなさい」


 おお、マジっすか!まんま小説。なるほど。どっちも平均スコアが確実に数ストローク縮まるな。でも。

 OBが出ないのは魅力だが、両手手袋は初心者みたいで格好悪いなあ。パターかなあ。でも今さら長尺パターは使いたくないしなあ。仲間にいじられそうだなあ。

 私は悩んだ。すると女神はにっこり微笑んでこう言った。

 「そう、お気に召さないのね。ではこういうのはどう?」

 「1つめは全く疲れることのないスパイクシューズ。ただしその代わり、18ホール歩くこと。カートに乗った瞬間その効力は永久に消えるわ」

 「2つめは平常心を保つキャップ。かぶっている間はあがることも、緊張することも、リキむことも、怒りに我を忘れることもないわ。ただしその代わり、絶対に水に濡らしてはいけなくてよ。洗濯などもってのほか。天日干しはぎりぎり許してあげる」


 うーん、プレー中はともかくインターバルもすべて歩くのは大変だし妙だよなあ。でもキャップは臭くなりそうだなあ。

 「あの女神様、キャップにファブリースかけるのはダメですか?」

 「ダ・メ・よ」

 「やっぱり・・・」

 うーんどうするか・・・・すると女神は小さなため息をついて続けた。

 「仕方ない子ね。じゃあ、こんなのはどう?」

 「1つめはグリーンフォーク。これを使うことで、1ラウンドで一度だけ、どうしても入れたいパットを念じて入れることができるわ。どんなに長いパットでもね。ただしその代わり、必ず18ホールで72個のピッチマークを修復すること。できなければその瞬間、効果は消える」

 「2つめは一本のティ。それを使うことで自分が打ちたいと思った方向に完璧に打ち出せるようになるの。ただしその代り、距離感に関してはズレが3倍になるわ」


 勝負どころの、絶対入れたいパットが入ったら気持ちいい。でも1ホール4個のピッチマークを治すのはけっこう大変だよな。すぐ忘れそうだし。ティはなくなったらショックだろうな。うーん・・・

 1分ほど考えるが結論はでない。ちらっと女神の顔を見ると、こめかみがピクピクしているのが暗闇でもはっきり分かる。

 「まだ決められないの?もう。優柔不断はゴルフの敵よ。じゃあ最後。とっておきのを出してあげる」

 「1つめは世界トップレベルのゴルフの才能。あたかも歩くかのごとくゴルフスイングができるようになるわ。ただしその代わり、ショットの練習を1回最低200球、しかも毎日欠かさず行わなければその才能はたちどころに消えるわ」

 「2つめは世界トップレベルの肉体。もちろんゴルフをするのに適した筋肉やしなやかさを持っている。何百球球を打っても、何日連続でラウンドしても音を上げない体ね。ただしその代わり、1日も休まずスクワットと腕立て伏せと腹筋を100回行うことが条件よ」


 すごい話だ。1つ目なら今からでもシニアプロになれる可能性があるだろう。ただし今の生活や仕事を投げ打ってになる。妻は絶対反対するだろうなあ。

 2つ目でも自分のゴルフは劇的に変わるだろう。腰痛も、痛風も、手首の痛みも、ゴルフ肘も、すべて気にしなくて良くなるだろう。でも毎日のトレーニング、キツイよなあ。

 ・・・さて、どうする?

















 私は少しの間考えて口を開いた。 「せっかくですが女神様、今のまま、素晴らしい仲間たちと週1回ゴルフができれば私は後は何もいりません」

 女神はにっこりと微笑む。

 「素晴らしいわ!その答えを私は望んでいたの」

 どうやら正解を引いたらしい。まあこういう話はえてして多くを望まないってのは正解だからな。これでひょっとしたらもっと良い贈り物が・・・

 女神は、笑顔を浮かべたまま言った。

 「そんなあなたには、これからもず〜っとゴルフと楽しめるよう、どんなに努力してもアプローチイップスが治らないようにしてあ・げ・る(はあと)。じゃあね!ふふふふっ」

 「えっいやあのちょっと待って・・」と慌てる私を尻目に、女神はふっと消え、あとは暗闇。





(今日5月28日はゴルフ記念日なんだそう。記念に拙いノンフィクションを。オチがありきたりであんまりいい出来じゃないけどそのへんはご容赦を)
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2016年01月24日

140万ヒット記念企画・昔はよかったのう(その2)

(続き)

 さて、どこまで話したかのう。若いおなごのキャディの話はしたかの?え?スタートから?そうかそうか。


 その当時は 15分間隔のスタートが当たり前じゃったから、前の組も後ろの組もほとんど視界に入らない。貸し切り気分でプレー出来た。もちろんインスタートなどという無粋なものはない。全てアウトからじゃ。

 先程 1人につき 1人キャディが付くというたが、コースにも1ホールにつき 1人か 2人、ティグラウンドとフェアウェイにキャディが待機しておる。え、フォアキャディだろうって?もちろん球の行方を見るのは当然じゃが、球の近くに小旗をさしてわかりやすくしたり、1ヤード単位で残り距離を測ってくれたり、時にはライを改善して打ちやすいようにもしてくれてたそうじゃ。もちろんワシはそういうのは断っておったがの。

 ティグラウンドのキャディは各ホールの説明はもちろん、いろいろな飲み物や食べ物、タバコや葉巻などを提供してくれたりする。もちろん全部無料じゃ。飲兵衛は毎ホールごとに飲んで、ハーフが終わる頃には泥酔状態ということも珍しくなかったのう。

 じゃあ 1人 1人に付いたキャディは何をするかって?そりゃもちろん日傘雨傘をさしたりボールをティアップしたり汗を拭いてくれたりするんじゃ。とにかく痒いところに手が届く、完璧なサービスじゃった。

 キャディとしての本来の仕事にちかいもの、つまりディボットホールの修復、バンカーの均し、グリーン上のラインの読みは当然として、ボールのマークからピックアップそしてセット、スコアの記録まで全部キャディがしてくれたぞ。我々はとにかく打つだけじゃった。当然カップからのピックアップもキャディの仕事じゃから、18ホール、一度もボールに触らずにプレーすることも多かった。


 パー3は特に素敵じゃったのう。ワンオンチャレンジの特設テントがあってのう、そこでチャレンジを申し込むとくじを引かせてもらえるんじゃ。もちろん有料じゃが、いいものが当たったぞ。乗らなくてもボール1ダース、グローブ、コースの割引券がもらえたし、オンしたらドライバー、アイアンセットなんかが当たった。特賞は温泉旅行やハワイ旅行などじゃったかのう。ワシも2回ほど旅行を当てたか。

 あと、慣習としてな、池のあるホールではワンオンしたら噴水が吹き出したり、花火が上がったり、待機していた楽団が出てきてファンファーレを吹いてくれたりしたもんじゃ。そりゃあ楽しかった。そして、キャディが抱きついてきてほっぺにチューしてくれるのじゃ。みんな鼻の下を伸ばしっぱなしじゃった。ええ時代じゃったのう。

 ホールインワンなどしようものならもうとんでもないことじゃ。その騒ぎがどれくらい凄かったかはな、もう一晩や二晩では済まんぐらいぐらいの乱痴気騒ぎといえば理解できるかのう。そりゃあホールインワン保険で家が建つぐらいの金額が出る時代だったからのう、推して知るべしじゃろう。


 そんなこんなでアウトをホールアウトしたら、今度は豪勢な昼食じゃ。和洋中、あらゆる料理が選べたかのう。シェフも一流の料理人を揃えておった。もちろん各組個室で、たっぷり2時間は掛けたぞ。食事が終われば次は体のケアじゃ。個室の奥にある畳の部屋で、キャディが体を軽くマッサージしてくれよるんじゃ。もちろんいかがわしいマッサージじゃないぞ。我々は紳士だからの。

 しかし食後、畳の上に引かれた布団の上でおなごに体をマッサージしてもらうというのはもう極楽浄土も心地だったのう。あまりの気持ちよさに、いつもよだれを垂らしてウトウトしておったわ。ええ時代じゃった。



 さて、もちろん我々はゴルフをしに来ているわけじゃから、極楽の時間が終わるとインスタートじゃ。後半も 1組8人、 4台のカートがコースを走る。え?カートは1台だろうじゃと?今はそうかもしれんが、我々の時は 1人につき1台は当たり前じゃった。もちろんキャディが運転してわしらは乗るだけじゃ。

 コース乗り入れも当然じゃったから、打ったら俺等は次のボールの横まで運んでくれた。だからかとおもうが、ヨボヨボで歩けない100歳近い爺さんでさえプレーに来とったからのう。今はそんなコース、めったにないのう。昔はよかったわい。

 パーが取れればチップ、バーディが出ればチップ。その頃のキャディは良い客に付いたら1日で十万ぐらいは稼いでおった。でもキャディが一番喜ぶ瞬間はノーズロじゃ。特別にチップを弾む習慣があってな。これがホントのチップ・インじゃ。ふぉっふぉっふぉ。

 楽しい時間もいつかは終りを迎える。ゴルフの最大の欠点は 18ホールしかないことじゃな。ただ、ホールアウトしたからもう終わり、というわけではない。そこから風呂に入って、さらに場合によっては夕食まで食べたもんじゃ。夕食がこれまた豪勢でのう、古今東西ありとあらゆる・・・え、食事の話はもうええとな。つまらんのう。

 風呂については大体想像がつくと思うが、またキャディが付いてきてくれて、背中を流してくれる。え、キャディも裸かじゃと?アホなことを言うでない。湯浴み着というてワンピースみたいなものを着ておったのう。

 それでもその下には肌着なんぞつけてないもんじゃから、結構ドキドキしたぞい。もちろん紳士の集まりじゃからピンフラッグを立てるような輩は居なかったがのう。ふぉっふぉっふぉ。

 風呂から出たらもう一度本格的な全身のマッサージじゃ。 1時間も2時間もマッサージされとったらそりゃあもう1日の疲れは全部吹っ飛んでしまう。キャディは皆、マッサージの資格も取っておったからの。殆どの客は気持ちよう熟睡しとったのう。ゴルフよりこのマッサージを楽しみに来る客も多かった。ええ時代じゃったのう。



 そんなこんなで、コースを後にするときには日が暮れるどころか夜中になることも多かった。そうなると帰りの自動車の運転が面倒じゃ。都会から離れたコースの場合は1時間も2時間も高速道路を運転せんといかん。せっかく疲れが取れたのにこれではまた疲れてしまう。

 そこで考えだされたのが「リムジンで自宅までお届け」サービスじゃ。これは流石に全員とまではいかんかったが、希望者は寝ながらにして自宅まで送ってもらえたのじゃ。もちろん車内で二次会をする酒好きもおった。中にはコースにコンパニオン待機させておいて帰りのリムジンの中で・・・いや、ワシはそんな事せなんだぞ。本当じゃ。純粋にゴルフがしたかったからのう。

 ん、リムジンの費用か?そうさのう、20万ぐらいじゃったかのう。1人ならまあちと高いが、4人で帰るなら1人頭5万じゃ。それぐらいははした金じゃろ。

 乗っていった自動車はどうしたかって?もちろんコースの若いのが運転して後ろから付いてきよった。今で言う代行業の「走り」じゃの。自動車だけにな。ふぉっふぉっふぉ。



 斯様にゴルフは面白かった。早朝から深夜まで、そりゃあ飽きさせんかった。サービスのすべてが詰まっておったのう。そう考えると今の若者は可哀想じゃ。あの幸せを知らずにゴルフをしとるんだからのう。

 ゴルフコースはまさに男の桃源郷じゃった。いやあ、昔はよかったのう。昔はよかったのう。昔はよかったのう。


(終わり)
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2016年01月23日

140万ヒット記念企画・昔はよかったのう(その1)


 お待たせ(え、待ってない?)。本家140万ヒットを記念し、久しぶりにフィクションをお送りします。といってもアイデアは筒井康隆の小説「昔はよかったなあ」がひな形です。いわゆるリスペクト。というわけで今日の日記は筒井先生に捧げます。







 おお、久しぶりじゃの。ちょっとお上がり。

 ゴルフに行ってきたのか。それは良かった。今はボールもクラブも良うなってアマチュアでも平均 300y飛ぶそうじゃのう。で、スコアはナンボだったのじゃ?え、47?ああ、ハーフの数字か。今はハーフのラウンドが当たり前になったんじゃな。

 しかし 300y飛ぶようになってもアマチュアのスコアは変わらんのう。え、昔か?お前さん、わしに昔話をねだられるか。そうかそうか。じゃあ長くなるがちょっとお聞きなされ。



 わしがゴルフを熱心にしていた頃・・・もう半世紀も前になるかのう。今ではメンバーコースや会員権という概念はほとんど消えてなくなってしもうたが、その頃はまだまだゴルフは限られた者のスポーツじゃった。メンバーコースでのラウンドは原則メンバーとゲストのみというのが厳格に守られ、いわゆる「クラブライフ」というものも生きておった。

 ラウンドも、今のように 6ホールや 9ホールを1時間や2時間で回るというものではなかった。そう、早朝9ホールラウンドして普通に仕事に行くとか、昼休みに 3ホール回るとか、夕方から6ホールだけ回るといった今と違い、その当時は朝から 18ホールを1日掛けて回るのが基本でのう、 9ホール回ったら休憩をとっておった。つまりゴルフは1日仕事じゃったのじゃ。

 何を驚いた顔をしておる。もちろんアマチュアの話じゃ。え、限られたセレブやアスリートだけに限った話ではないか、だと?アスリートかどうかはともかく、たしかに金は掛かったのう。1日遊んだら大学初任給ぐらいの金が飛んでいったわ。その代わり、今では考えられんぐらいええ遊びじゃったぞ。

 もちっと詳しく話してやろう。



 まず、コースでラウンドするためには予約が必要じゃった。それも、数ヶ月前からじゃ。でないとすぐにいっぱいになってしまうでのう。そう、その頃はゴルファーの数に比べてゴルフ場の数が圧倒的に少なかったのじゃ。しかし予約してラウンドできるゴルファーは恵まれておった。会員権を持っているか、会員権を持っている友だちがいるゴルファーはわずかじゃったからのう。

 え、会員権を持っていない多くのゴルファーはどうしていたかとな?パブリックコースに数日前から並んで日曜日のスタート枠を確保したのじゃ。数時間前じゃないぞ、数日前じゃぞ。そう、その当時土曜日も午後まで働いていたサラリーマンは並べない。だから金曜や土曜の午前中、代わりに並んでくれる「並び屋」に日当を払って並んでもらったりしたものじゃ。時には並び屋へ払う金額がプレーフィーと同じぐらい掛かることもあったそうじゃ。

 と言ってもパブリックはメンバーコースの十分の一ぐらいのプレーフィーじゃったからの。まあ、飛行機のエコノミークラスとビジネスクラスの違いぐらいか。


 メンバーコースの話に戻そうかの。そうやって数ヶ月前、朝一番から予約の電話を何度も掛け、枠を押さえ、いよいよ当日じゃ。基本的には車で行くことが多かったかのう。都会の近くにあるコースは高級でなかなか回れんかったから、わしらは県をまたいで数時間自動車を走らせることも珍しくなかった。朝早いスタートの場合は午前3時に家を出る、なんてこともあった。

 しかし、そんな苦労もコースへ行けば屁のようなものじゃった。まず、車がエントランスに着くと、支配人以下従業員とキャディ一同がズラッと並び、腰も折れよとばかりのお辞儀をして迎えてくれるのじゃ。我々はそこで車から降りる。バッグの積み下ろしはもちろん、車もパーキングまで持って行ってくれるフルサービスが当たり前じゃった。

 そこで初めにわしらが行うのはキャディの指名じゃ。若いの、ベテラン、可愛いの、美人、イケメン、上級コースともなればありとあらゆるニーズに合ったキャディを用意しておる。ワシは若いのには目もくれず。いつもコースを熟知したベテランを付けてもらったがの。え、本当かじゃと?もちろん嘘じゃ。ふぉっふぉっふぉ。

  1組に 1人じゃないのかって?馬鹿言っちゃいかん。そんなのは安物のパブリックコースだけじゃ。マンツーマンでキャディが付くのは当たり前、中には2人も 3人も付ける奴もいた。コースへ何しに来とるんだか。まあそんな奴は当然ゴルフの腕前はからっきしだったがのう。


 キャディを選んだ後は受付じゃが、もちろん自分からフロントへ並ぶなんて無粋なこととは無縁じゃ。その当時はどこでもそうだったが、フロント前のフロアにソファが並んでおった。そこへ座っていると美人の受付がコーヒーを持ってやってきよる。そこでやっと受け付けを済ます。

 ロッカー室は個室になってるところがほとんどじゃったのう。もちろん狭いスペースじゃったが、ロッカーというよりクローゼットルームじゃな。鏡、椅子、テーブルなどが置いてあって、まあTV局などにある小さめの楽屋をイメージしてもらうと分かりやすいかのう。そこへエントランスで選んだキャディがかばんを持って付いてきよる。

 そしてキャディが着替えを手伝ってくれるのじゃ。個室でキャディと 2人きりになるわけじゃが、もちろんその当時のゴルファーは紳士ばかりで不埒な事をする輩は皆無じゃった。しかし、ちょっとドキドキするようなときめきはあったんのう。これからラウンドする期待と、若いおなごの息遣いと、今思えばほんわかした夢のような、ええ時間じゃった。今ではそんなコースはなくなってしもうた。返す返す残念じゃ。


 着替えを済ますといよいよラウンド、と思うだろうがそうではない。ラウンド前には必ず皆で朝食を食べたもんじゃ。だからティオフの2時間ぐらい前にコースへ付くのは当たり前じゃった。またその朝食も和定食梅、和定食竹、和定食松、和定食デラックス、和定食デラックス懐石、洋定食B、洋定食A、洋定食S、洋定食フランス風、洋定食ザ・ワールド、中華定食並、中華定食上、中華定食特上、中華定食満漢全席などがあり、一番安い洋定食Bでもヨード卵光と本物のボンレス・ハムで作られたハムエッグにポテトにサラダにオートミールにマカロニにオレンジジュースにヨーグルトに果物にコーヒーが付いて3000円じゃった。一番高い朝食で9000円ぐらいじゃったかのう。

 そうやってゆっくり、 1時間ほど掛けて朝食をとったら次は練習じゃ。スタート室前ではキャディが待機しておって、打席練習場まで案内してくれる。もちろんバッグは担いで付いてきよるから手ぶらじゃ。練習場は芝の上から、ボールはあらかじめ受付の時に申告していた、自分が使っているボールを2ダース用意してくれておる。もちろんニューボールじゃぞ。それはプレーフィに入っておるが、2ダース以上打つ時はロストボールになるのが残念じゃった。

 中には最初に出されたニューボールを打たずに全部持って帰る奴もいたが、それも自由じゃ。まあそんなセコい奴はほとんどいなかったがのう。

 ボールはもちろんキャディが 1つづつセットしてくれる。ミスした時は「ドンマイです!」そしていい当たりが出た時は「ナイスショットです!」というのが決まりじゃったのう。すぐ横で、自分だけを慰めたり励ましたりしてくれるのはなかなかええもんじゃった。特に若くて可愛いキャディの時はの。ふぉっふぉっふぉ。

 打球練習が終われば次はパッティングじゃ。ここにもキャディは付いてきてくれて、ボールを何球か用意してくれている。こちらが聞けばいろいろアドバイスをくれるし、そうでなければ黙々とボールをセットしたり取りに行ったりしてくれる。自分のために若いおなごが懸命に働いてくれるというのは本当にええ・・・え、そのくだりはもういいとな。つまらんのう。

 ここでキャディに渡しておったチップを説明しておこうか。チップを渡すのは当然じゃが、相場は一人 3万円じゃった。まあ当時のプレーフィーに比べると安いものじゃ。ただ、これは最低ラインでの、もしキャディの働きが気に入ったら2倍 3倍渡すのも当たり前じゃったのう。もちろん下心があるからではないぞ。純粋なお礼の気持じゃ。

 さあ、そうこうしているうちにいよいよスタートじゃ。ん?話が長いから一旦休憩する?最近の若いものはこらえ性がないのう。仕方ない、暫く休むとするか。


(続く)
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