2016年12月27日

天国と地獄(その2)

(続き)


 「Gよ、これからお前に審判を下す」

 来たよ。しかしこのベタな展開、まさに想像通り。これも俺の想像の産物か?

 「まず、お前の罪だが、スコアを誤魔化すこと12回。これには意図せず過少申告した7回が含まれる。次にライの改善をしたことが31回、ちょっと多いほうじゃな。それから」

 「いやいやいやちょっと待ってください大王さん。なんでゴルフの事なんですか?しかもいきなり。普通は人を傷つけたとか、道徳的に悪いことをしたとか、そんなことのほうが大事じゃないですか?」

 「ん、そうだな。だがお前の頭の中はゴルフの事ばっかりみたいだからな。間違えたわい。お前の人生全般のことについては、すでに天国行きが決まっておる」

 「まじっすか?!良かったー!!」

 「お前の普段の行動については−28,804点、家庭や家族のことについては−4,686点、他人への関わりについては−6,319点、良いところはまったくなかった」

 「えー、そんなに酷かったんですか?」

 「酷かった。まあ1,000人に1人のマイナス点じゃな。しかし、仕事を熱心に行い、多くの人たちに夢と希望を与えた点。これがプラス40,251点で、かろうじて天国行きが決まったのじゃ」

 「そうですか。まあ天国へ行けるならいいか」

 「しかしここからじゃ。天国といっても色々ある。いや、100人人間がいれば100個の天国があると言って良い。それぐらい天国とは個人的なものじゃ」

 「そりゃそうでしょうね。家族と平穏に過ごすことが第一って人もいれば、延々と酒が飲めたら後は何もいらないって人もいるでしょうし。おっぱいの大きい女の子が」

 「お前の天国はゴルフができるかどうかである」

 「仰るとおり。ノー・ゴルフ・ノー・ライフ、が私の座右の銘でしたからね」

 「で、お前がその『ゴルフができる天国』に行けるかどうかが、これから審判されるのだ」

 「あ、そこで最初の話になるわけか。そりゃ大丈夫でしょ。憚りながらハンデは片手、ホームコースでインターの選手にもなったし、ゴルフ仲間もたくさんいたし、マイナス点なんてこれっぽっちもないはずだけど」

 「どうかな。それを今、全て明らかにしてみよう」

 「どうぞどうぞ」

 「上の続きだが、そうやってズルをした回数は合計で92回。920点減点じゃ」

 「多いのか少ないのかわかんないけど」

 「92回という数はまあ、お前のゴルフ歴を考えると多くも少なくもない。次にゴルフに対する姿勢じゃ」

 「一生懸命やってたけどなー」

 「まず、コースを意図的に傷つけたことが119回、スタートの遅刻をしたことが54回、同伴競技者を不快な気分にさせたことが2,177回」

 「ちょ、ちょっと待って!コースを傷つけたのは認める。遅刻も認める。でも最後のは何かの間違いだ。しかも二千回以上って」

 「閻魔大王に間違いはない。例えば、コースで大声を上げたことはなかったか?前の組のスロープレーに悪態をついたことは?ミスショットに対して周囲が引くほど怒りを爆発させたことは?」

 「そりゃ多少はあるかもしれないけど、二千回以上って」

 「まあ1ラウンド平均にすると0.9回ぐらいになるな。それぐらいならあるだろう」

 「そんなに無いと思うけどなあ」

 「これで減点23,500点じゃ」

 「そんなに無いと思うけどなあ・・・・」

 「次。自分が上手なことを鼻に掛け、自分より下手なプレイヤーをバカにするような発言や行動をしたことが301回」

 「いやいやいやいや、それは無い。絶対にない」

 「お前が無いと思っていても相手はそう思っていないのだよ。何なら1人づつ名前を上げていこうか?」

 「いいですよ、どうぞ」

 「お前のホームコースの大先輩、S氏に対して。20xx年x月x日、12番ホールの2打目地点。S氏が打とうとした時、お前はすぐ横のカートで自分の荷物をいじってガチャガチャ音を立てた。S氏が『静かにしてくれんかね、G君』と声を掛けたことに対し、お前は『スイマセン、でもこれぐらいの音が気になるメンタルではシングルにはなれませんよ』と言った」

 「いや、それはSさんのことを思ってですね・・・」

 「コースの理事であるSさんは相当腹を立て、『あの失礼な若造を除名にしろ!』と理事会で話が上るまでになった」

 「それは私の本心が曲解されてですね・・・」

 「その問題を解決するのに、お前の友人が何人骨を折ってくれたことか。そのことは知っているだろう」

 「そう言えばそんなことをチラッと注意された事があったような、なかったような」

 「つまり君は自分の問題行動をまったく自分でわかっておらんのだ。それは一番の罪だ」

 「そんなつもりはなくて、私はただSさんにもっと大らかなゴルファーになってほしくて」

 「・・・・。もういい。次は他人のミスを笑ったり、ミスを責めたりしたこと」

 「たまには笑うでしょう。でもその笑いは嘲笑じゃなくて、場を和ますためであって」

 「そういうのを閻魔用語で『言い訳』という」

 「いやいや、言い訳じゃなくてですね」

 「楯突く気?閻魔大王様に?」

 「はいはいはい。どーぞ続けて。じゃあミスを責めるって?」

 「グリーン上でラインを踏まれた時、『それはゴルファーとしてどうなんですか?』と言ったり、『ちょっと注意力が足りないんと違いますか?』と言ったり」

 「いや、そんなの、いつもじゃないですよ」

 「現に、その棘のある言い方で非常に立腹した人が4人もいるのは事実だ」

 「それは踏むほうがそもそも悪いし、注意に対して怒るなんて逆切れじゃないですか」

 「お前の言っていることはたしかに正しい。しかし、正しいことが全て『正解』とは限らないのだ」

 「いや意味わからないし。正しいことはいつも正しいでしょう」

 「お前は容姿を気にしている女性に『あなたは酷いブスだからもっと化粧をうまくしたら?それより思い切って整形したら?そのほうが人生うまく行くよ』と言うのか?」

 「いや、そりゃ知らない人には言いませんよ。でも親しい人になら言ってあげたほうが親切じゃないですか」

 「そういうのは閻魔用語で『大きなお世話』という」

 「そうですか。正直に生きることが正解じゃないなら、僕はその正解を否定したいですね」

 「というわけで、減点は合計で8兆2144億7796万2858点だ」

 「はぁ?なんですかその天文学的数字?絶望的じゃないですか。じゃあゴルフのできない天国行きなんですねはいはい」

 「まあ待て。あとは加点がある」

 「8兆って」

 「まず、同伴競技者が楽しい思いをした。1,902点」

 「8兆って何なん」

 「ゴルフというスポーツに真摯に向かい合った。15,688点」

 「桁が何桁違うねん」

 「真面目に努力し、人々の模範となる言動を取った。93点」

 「誤差やん」

 「そして」

 「もうええわ」

 「コースに咲いた一輪の草花を避けてショットした。1兆点」

 「どんなシステムやねん」

 「最後に」

 「いまのがオチとちゃうんかい」

 「8人のゴルファーに対する良きライバルとして君は居た」

 「その点数は?」

 「7兆点ちょっと」

 「なんで帳尻合わすねん。バラエティ番組か。で、結局どうやねん!!」

 「君は」

 「僕は?」

 「練習場しかない天国で功徳を積み、1000年後にまたここへ来なさい」

 「何それ?それ天国ちゃうし」

 「練習し放題の天国だな」

 「・・・・」

 「以上」

 「判った。それなら、1000年間練習し続けて」

 「?」

 「天国一上手いゴルファーになってやる!!」






 彼が天国一上手いゴルファーになれるかどうかは、1000年後に結論が出る予定である。

(終わり)
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2016年12月26日

天国と地獄(その1)


 最高の季節、例えば晩秋の小春日和。気のおけない仲間たちと最高にコンディションが整った名コースを回り、ラウンド後はレストランでのゴルフ談義に時を忘れ、その後も場所を変えて昼間のラウンドを肴に美味しい料理と酒を酌み交わす。そしてそんな日がずっと続く。

 また、金に糸目をつけず、世界中の名コースをラウンドして回る。あるいは、素晴らしい景色や満開の桜、見事な紅葉を愛でながらコースを回る。

 最終ホールをパーで上がればベストスコア更新。ティショットがフェアウェイに飛び、2打目のアイアンショットがピン方向へ。グリーンへ上がってみると、タップインの位置にボールが・・・・


 ゴルファーにとっての天国というものがもしあれば、そういうものを想像するだろう。

 逆に地獄の方はシンプルだ。ラウンドできない、それだけでゴルファーは羽の折れた鳥のように自由を奪われてしまう。

 さて、これから語られるのは一人のゴルファー、G氏の物語。その主人公がいきなりこの世に別れを告げたところから始まる・・・・







 どうやら俺は死んでしまったようだ。死因?そんなことはもうどうだって良い。後ろを振り返っても戻れないし、俺のモットーの1つは「常に前向き、後悔しない」だからな。

 俺が死んでしまったと感じたのは、深い霧が立ち込めた、得体の知れない場所に立っている状態で目覚めたからだ。目覚めたというより、いきなり意識が100%戻った感じ。地面はしっとりと湿った土のような感触だが、あまりに霧が濃すぎて立った姿勢からでも確認できない。

 動こうにも動けず、とりあえず大声で「おーい」と叫んでみる。反響はない。野原にいるような感じだ。とりあえず危険はなさそうだし、もしあってももう死んでるんだからこれ以上悪いことは起きないだろうと思い、そろそろと歩き出した。

 あの世でも時間の経過があるのかどうかわからないけど、10分ほど歩いたところで水が流れるような音がしてきた。お、噂に聞く三途の川か?と俗っぽいことを考えながら歩みをすすめる。すると、霧が少し晴れ、オーガスタの13番左サイドに流れるクリークそっくりのこじんまりとした川が目の前に現れた。

 これはたぶん俺自身が作り出した「川」のイメージなんだろうな。ゴルフが好きで、仕事も家庭も疎かにしてゴルフにうつつを抜かした人生だったものな。などと考えつつ、浅瀬と岩を足場に向こう岸へ渡る。え、そんなに簡単に渡っちゃていいのかって?俺のモットーの1つは「思い立ったら即行動」だからな。

 なんとか渡りきる。気づけば霧がだいぶ晴れてきて、遠くにぼんやりと建物のようなものが見えた。とりあえずそっちへ行ってみようか。



 現世に置いてきた嫁さんと子どもたちはどうしてるだろうな、などと考えているうちに建物に到着。ギリシャの神殿っぽいと言われたらそんな感じだし、寺って言われればそんな雰囲気もするし、まあこれも自分の「死後の世界の建物」のイメージが投影されてるってことだろうな。

 で、門的なところには鬼的なものが居て、気がつけば周囲には私と同じような死者的なものがぞろぞろと歩いているのだが、皆ぼんやりしていてよく見えない。なんとなく、その死者的な群れと同じ方向に歩いていく。

 そうこうしているうちに、目の前にひときわ大きな人物が見えてきた。ほぉ、たぶんこいつが閻魔大王的なもので、ここで天国とか地獄に振り分けられるのだろうな、と思ったらまさにそのとおりだった。あの世も意外と陳腐である。

 「Gよ、これからお前に審判を下す」


(続く)
posted by hiro at 20:16| Comment(0) | フィクション

2016年05月28日

古典的正答

 休日。いつものようにラウンドし、早めに床についた真夜中。

 ふとただならぬ気配を察し、目を覚ます。するとベッドのすぐ横にこの世のものとは思えない何者かが立っているではないか。夢かと思ったが、どうやら違うようだ。するとまだはっきりしない頭の中で声がした。

 「私はゴルフの女神。あなたのゴルフに対する人一倍の情熱、それをたたえるため、今日はあなたに贈り物を与えにきたの。今からいう二つのうちどちらか一つ、欲しいものを選びなさいな」

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 眠気がいっぺんに覚める。これって星新一とかのショートショートによくあるやつじゃん!降って湧いた幸運に興奮する私。

 「1つめはOBが出ない手袋よ。ただしその手袋は必ず両手にはめること」

 「2つめは絶対に3パットしないパター。ただしそれは長尺パターなので、アンカリングしない打ち方を自分で工夫しなさい」


 おお、マジっすか!まんま小説。なるほど。どっちも平均スコアが確実に数ストローク縮まるな。でも。

 OBが出ないのは魅力だが、両手手袋は初心者みたいで格好悪いなあ。パターかなあ。でも今さら長尺パターは使いたくないしなあ。仲間にいじられそうだなあ。

 私は悩んだ。すると女神はにっこり微笑んでこう言った。

 「そう、お気に召さないのね。ではこういうのはどう?」

 「1つめは全く疲れることのないスパイクシューズ。ただしその代わり、18ホール歩くこと。カートに乗った瞬間その効力は永久に消えるわ」

 「2つめは平常心を保つキャップ。かぶっている間はあがることも、緊張することも、リキむことも、怒りに我を忘れることもないわ。ただしその代わり、絶対に水に濡らしてはいけなくてよ。洗濯などもってのほか。天日干しはぎりぎり許してあげる」


 うーん、プレー中はともかくインターバルもすべて歩くのは大変だし妙だよなあ。でもキャップは臭くなりそうだなあ。

 「あの女神様、キャップにファブリースかけるのはダメですか?」

 「ダ・メ・よ」

 「やっぱり・・・」

 うーんどうするか・・・・すると女神は小さなため息をついて続けた。

 「仕方ない子ね。じゃあ、こんなのはどう?」

 「1つめはグリーンフォーク。これを使うことで、1ラウンドで一度だけ、どうしても入れたいパットを念じて入れることができるわ。どんなに長いパットでもね。ただしその代わり、必ず18ホールで72個のピッチマークを修復すること。できなければその瞬間、効果は消える」

 「2つめは一本のティ。それを使うことで自分が打ちたいと思った方向に完璧に打ち出せるようになるの。ただしその代り、距離感に関してはズレが3倍になるわ」


 勝負どころの、絶対入れたいパットが入ったら気持ちいい。でも1ホール4個のピッチマークを治すのはけっこう大変だよな。すぐ忘れそうだし。ティはなくなったらショックだろうな。うーん・・・

 1分ほど考えるが結論はでない。ちらっと女神の顔を見ると、こめかみがピクピクしているのが暗闇でもはっきり分かる。

 「まだ決められないの?もう。優柔不断はゴルフの敵よ。じゃあ最後。とっておきのを出してあげる」

 「1つめは世界トップレベルのゴルフの才能。あたかも歩くかのごとくゴルフスイングができるようになるわ。ただしその代わり、ショットの練習を1回最低200球、しかも毎日欠かさず行わなければその才能はたちどころに消えるわ」

 「2つめは世界トップレベルの肉体。もちろんゴルフをするのに適した筋肉やしなやかさを持っている。何百球球を打っても、何日連続でラウンドしても音を上げない体ね。ただしその代わり、1日も休まずスクワットと腕立て伏せと腹筋を100回行うことが条件よ」


 すごい話だ。1つ目なら今からでもシニアプロになれる可能性があるだろう。ただし今の生活や仕事を投げ打ってになる。妻は絶対反対するだろうなあ。

 2つ目でも自分のゴルフは劇的に変わるだろう。腰痛も、痛風も、手首の痛みも、ゴルフ肘も、すべて気にしなくて良くなるだろう。でも毎日のトレーニング、キツイよなあ。

 ・・・さて、どうする?

















 私は少しの間考えて口を開いた。 「せっかくですが女神様、今のまま、素晴らしい仲間たちと週1回ゴルフができれば私は後は何もいりません」

 女神はにっこりと微笑む。

 「素晴らしいわ!その答えを私は望んでいたの」

 どうやら正解を引いたらしい。まあこういう話はえてして多くを望まないってのは正解だからな。これでひょっとしたらもっと良い贈り物が・・・

 女神は、笑顔を浮かべたまま言った。

 「そんなあなたには、これからもず〜っとゴルフと楽しめるよう、どんなに努力してもアプローチイップスが治らないようにしてあ・げ・る(はあと)。じゃあね!ふふふふっ」

 「えっいやあのちょっと待って・・」と慌てる私を尻目に、女神はふっと消え、あとは暗闇。





(今日5月28日はゴルフ記念日なんだそう。記念に拙いノンフィクションを。オチがありきたりであんまりいい出来じゃないけどそのへんはご容赦を)
posted by hiro at 19:44| Comment(0) | フィクション